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公法


平成27年度

 近年、様々な仕事の現場で、勤務者それぞれが主体的に目標を設定し、その達成に積極的に取り組むことが求められている。Y市の学校教育の現場でも、教職員が各学校の組織目標を前提とした個人目標を主体的に設定し、その達成に積極的に取り組むことが求められるようになった。
 そこで、Y市教育委員会は、各職員が、年度ごとに個人目標を設定し、それに対する取り組みを自ら評価し、改善などを行うことで、職務意欲・資質能力の向上、教育活動の充実及び組織の活性化を図る教育員の評価・育成システム(以下「本件システム」という。)を導入した。
 このシステムのもとでは、各職員が、年度ごとに取り組む目標を記載した①自己申告票を作成し、その作成過程では、香調との目標設定面談を経ることになっている。また、目標設定状況等は、年度ごとに順次追記する。このように作成された①自己申告票は香調に提出される。本件システムの趣旨を達成するためには、自己申告票に、教職員が自己の目標や達成状況、目標設定の背景となる周囲の環境等について、作成者自身に関する記載のみならず、他の教職員や生徒、保護者に関する記載も含め、対象者の利益、不利益を問わずに具体的に記載される必要があるとされる。
 また、各校長は、当該教職員に対する日常の観察や、自己申告票自体の内容を踏まえて、その評価を記載した②評価・育成シートを作成する。②評価・育成シートは、当該教職員にそれを開示し、面談などを通じて指導助言を行う。この過程で作成された①自己申告票及び②評価・育成シートの写しは、校長から勤務成績の評価賢者であるY市教育委員会に提出される。本件システムの目的を全うするには、②評価・育成シートは、児童・生徒の自己やいじめへの対応の適否、授業における工夫の不足など、問題がれば具体的に指摘し、各校長の率直的な評価を記載する必要がある。
 平成N年度も、このような形で、①自己申告表と②評価・育成シートが作成され、Y市教育委員かに提出された。
 このうち、①自己申告票は、①A:作成者の所属校、氏名・経歴等、①B:各学校の組織目標を前提とした各教職員の当該年度の個人設定目標、①C:当該年度の目標達成状況及び来年度の設定目標の各欄から構成されている。①C及び①Cの欄には、生徒や他の教職員の個人名、地名、学校名、生徒に関する健康の状況、障害の状況、指導の状況、成績評価の方法等、担当職務に関連する事項が直筆またはパソコンで記載されており、訂正印が押印されているものもある。
 他方、②評価・育成シートは、②A:作成者の氏名および所属校等を記載する欄のほか、②B:校長による業務評価、能力評価、総合評価の3点の個人評価、②C:各教職員の次年度に向けた課題・今後の育成方針の各欄から構成されている。そして、これらの欄は、おおむyね評価者の直筆により記載されている。

Y市民Xは、Y私立A小学校に通う2人の親として、また、A小学校PTA会長として、Y市内の教職員がどのように評価され、問題改善・教育能力向上の取組を行っているか知りたいと考えるに至った。Xは、Yの市報にて本件システムのことを知り、Y市の教職員全体について、①自己申告票と②評価・育成シートの閲覧をしたいと思った。
 そこで、Xは、Y市情報公開条例第5条に基づき、個人情報(①A及び②Aの欄)を除くY市教職員全員の平成N年度の①自己申告票(①B及び①Cの欄)と②評価・育成シート(②B及び②Cの欄)の開示を請求した。この事案について、次の問題1及び問題2に答えなさい。

問題1 Xが利用した情報公開制度は、憲法上にある権利を具体化する制度として理解されている。その権利とは、どのような権利であり、憲法上どのような位置づけが与えられているか、説明しなさい。

問題2 あなたがY市の担当者だとしたら、Xの情報公開請求について、どのような判断をするか。【参照条文】を適切に引用しつつ、結論とともに理由を述べなさい。

【参照条文】Y市情報公開条例(抜粋)
(公文書の公開を請求する権利)
第5条 何人も、この条例の定めるところにより、実施機関に対し、当該実施機関の保有する公文書の公開を請求することができる。

(公開請求の手続き)
第6条 前条の規定による公開の請求(以下「公開請求」という。)は、次に掲げる事項を記載した書面(以下「公開請求書」とう。)を実施機関に提出しなければならない。
(1)公開請求をする者の氏名または名称及び住所又は居所並びに法人その他の団体にあっては、代表者の氏名
(2)公文書の名称その他の公開請求に係る公文書を特定するに足りる事項
2 実施機関は、公開請求書に形式上の不備があると認めるときは、公開請求をした者(以下「公開請者」という。)に対し、相当の期間を定めて、その補正を求めることができる。この場合において、実施機関は、公開請求者に対し、補正の参考となる情報を提供するように努めなければならない。

(公文書の公開義務)
第7条 実施機関は、公開請求があったときは、公開請求に係る公文書に次の各号に掲げる情報(以下「非公開情報」とう。)のいずれかが記録されている場合を除き、公開請求者に対し、当該公文書を公開しなければならない。
(1)個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。
ア 法令若しくは条例(以下「法令等」という。)の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報
イ 人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報
ウ 当該個人が公務員等(国家公務員法(昭和22年法律第120号)第2条第1項に規定する国家公務員(独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)第2条第2項に規定する特定独立行政法人の役員及び職員を除く。)、独立行政法人等(独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(平成13年法律第140号)第2条第1項に規定する独立行政法人等をいう。以下同じ。)の役員及び職員、地方公務員法(昭和25年法律第261号)第2条第1項に規定する独立行政法人をいう。以下同じ。)の役員及び職員をいう。)である場合において、当該情報がその職務の遂行にかかる情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職、氏名及び当該職務の遂行の内容にかかる部分
(2)~(5) (略)
(6)市の機関又は国、独立行政法人等、他の地方公共団体若しくは地方独立行政法人の機関が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの
ア 監査、検査、取り締まり、試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ
イ 契約、交渉又は訴訟に係る事務に関し、国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ
ウ 調査研究に係る事務に関し、その構成かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ
エ 人事管理に係る事務に関し、構成かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ
オ 独立行政法人等、地方公共団体が経営する企業又は地方独立行政法人に係る事業に関し、その企業経営上の正当な利益を害するおそれ
(7) (略)

(公文書の一部公開)
第8条 実施機関は、公開請求に係る公文書の一部に非公開情報が記録されている場合において、非公開情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは、公開請求者に対し、当該部分を除いた部分につき公開しなければならない。ただし、当該部分を除いた部分に有意の情報が記載されていないと認められるときは、この限りでない。
2 公開請求に係る公文書に前条第1号の情報(特定の個人を識別することができるものに限る。)が記録されている場合において、当該情報のうち、氏名、生年月日その他の特定の個人を識別することができることとのなる記述等の部分を除くことにより、公にしても個人の権利利益が害されるおそれがないと認めれられるときは、当該部分を除いた部分は、同号の情報に含まれないものとみなして、前項の規定を適用する。

平成26年度

 砂利採取法(以下「法」ということがある。)によれば、砂利の採取を行うためには法第3条に基づく登録(以下単に「登録」という。)を受けた上で、法第16条に基づき、個々の砂利採取場ごとに採取計画を定め、都道府県知事の認可(以下単に「認可」という。)を受けなくてはならない。
 Xは、登録を受けた上で、長年にわたって砂利の採取・運搬・販売を行う事業を営んでおり、優良な砂利を含む土地が多いA県内を回って適切な事業地を探していたところ、B所有の広さ3,000㎡程度の土地(以下「本件土地」という。)を発見した。本件土地は、ほとんど人通りのない広い道路がある上、周辺一帯が平坦な土地であるため、土地掘さく用のブルドーザー等の大型重機の搬入や採取した砂利の搬出が容易である。また、本件土地は、柵で囲まれているだけであるが、周辺1km圏内には、人家はおろか店舗や公共施設のような人の集まる場所がなく、掘さくの際の飛砂や騒音をそれほど気にかける必要もない。これらのことから、本件土地は、Xにとって望ましい砂利採取地に思われた。そして、Xは、さらに検討した結果、今後1年間に本件土地のうち2,800㎡を深さ6mにわたって掘さくし、そこから採取できる砂利を販売すれば、諸々の費用を上回って大幅な利益を挙げることができるという結論に至った。そこで、Xは、平成26年1月15日に土地所有者のBとの間で、期間を1年とする本件土地に係る砂利採取契約(以下「本件契約」という。)を締結し、本件契約に従い、Xは即日、Bに対して600万円支払った。
 ところで、A県においては、優良な砂利を含む土地が多いことから、多数の砂利採取業者が認可を受けて県内で砂利の採集を行っており、全国における認可数の半分以上をA県が占めている状況が長年にわたって続いていた。そして、採取計画には砂利採取後に掘さく跡地の埋もどしを行う旨を定めて会うのが通常であったが(法第17条第4号参照)、いくつかの掘さく跡地においては採取計画に定められた土地の埋め戻しが行われないまま放置され、場合によっては法第23条第2項に基いてA県知事が埋めもどしを命ずることもあった。この埋めもどし命令は、他の都道府県ではほとんど例がないにもかかわらず、A県においては毎年3~4件発せられており、A県の所管課では、埋めもどしが行われないまま掘さく跡地が放置されたことに起因する事故等が生じないように留意していた。しかしながら平成25年11月、ある斜面地における砂利採取後の掘さく跡地で、その掘さく後も埋めもどしが行われないままの状態で地盤が緩んだところに大雨が降った結果、土地が崩落し、斜面地の下に位置している家屋の一部が土砂に埋もれるという事態が生じた。さらに、同年12月には、小学校近くの砂利採取場で土地が6m掘さくされた後も埋め戻しが行われないままになっていた掘さく跡地に小学生が転落して大けがをするという事件が発生した。この2つの事件を受けて、A県議会でも砂利採取場の掘さく跡地の埋め戻しが議論され、平成26年1月27日、A県砂利採取計画に関する条例(以下「本件条例」という。)が制定され、即日施行された。本件条例は、採取計画において砂利採取場の掘さく跡地の埋めもどしについて保障措置を定めるよう義務付けており(本件条例第6条)、具体的には本件条例を受けて制定されたA県砂利採取計画の認可に関する条例施行規則(以下「本件規則」という。)第5条において、申請者が埋めもどしを履行できない場合に、例えば申請者に変わって土地所有者が埋めもどしを行う際にかかる費用に関して金融機関に保証してもらうことが定められている。(本件規則同条第1項第2号)。そして、このような保障措置が適正かどうかについて、認可をする際にA県知事が審査するものとされている(本件条例第7条1項3号)。なお、本件規則第5条第1項第2号に定める保障措置の対価として、許可申請者は補償を引き受ける金融機関に対し埋めもどしの費用見積額の1%程度の保証料を支払うのが通常である。
Xは本件契約において、Xが埋もどしを履行できなかった場合にはBがXに代わって埋めもどしを履行するという契約条項を入れようとしたが、その費用に関して金融機関から保証が得られなかったため、Bがそのような条項を入れることに反対した結果、そのような条項のない契約となった。その後、Xは、本件規則第5条第1項第1号に定める保証を得ようとしたがこれもうまくいかず、A県所管課に相談したところ、同項第3号の保障措置も認められないという返答を受けた。そこでXは、やむをえず、本件契約に係る本件土地の採取計画(以下「本件契約」という。)には本件規則第5条に定める保障措置を定めず、また、本件規則第5条第2項の書類を添付しないまま、同月31日にA県知事に対して本件計画の認可を申請した(以下「本件申請」という。)。この本件申請に対して、本件計画は保証措置に関する項目以外はすべて要件を満たしているが保障措置が定められないため法第19条の拒否事由が認められるとの理由で、同年2月14日に不認可処分(以下「本件処分」という。)がなされた。

以上のような経緯のもと、XからA県所管課に対して、本件処分は違法だと考えているので場合によってはその取消訴訟を提起するつもりであるという通告があり、さらに、もし本件処分が適法だとするならば、本件処分によって本件土地の砂利を採取できなかったことによる、本件契約に係るBへの支払い額600万円分の損失補償を憲法第29条第3項に基づいて請求するという連絡もあった。

 あなたは、A県の法務担当者で、A県の所管課から次の3つの照会を受けたとする。後掲の【参照条文】を参考にしながら、必要があれば最高裁判所の判例も踏まえて、それぞれの紹介に対する回答書を作成するつもりで解答せよ。
【照会1】本件条例が第6条において、採取計画に保障措置を定めることを義務付けている点は砂利採取法に違反するか。
【照会2】仮に本家条例が法律に違反しないとした場合、本件処分が違法とされる理由としてどのようなものが考えられるか。ただし、手続き上の違法は除く。
【照会3】仮に本件処分が適法だとした場合、Xからの損失補償請求は認められるか。

【参照条文】※A県条例に関するもの以外は第◯条とのみ記載
日本国憲法 第29条、第94条
地方自治法 第2条、第14条
砂利採取法 第1条、第2条、第3条、第16~19条、第21条、第23条、第31条
砂利採取計画等に関する規則 第1条、第3条
A県砂利採取計画の認可に関する条例(平成26年1月27日A県条例第2号)(抜粋)
(趣旨)
第1条 この条例は、砂利採取法(昭和43年法律第74号。以下「法」という。)第16条の規則による採取計画の認可…(…以下「認可」という。)に関し、必要な事項を定めるものとする。
(災害防止措置)
第3条 認可を受けようとする者(以下「申請者」という。)は、次の各号に該当する場合は、当該採取計画に当該各号に応じて規則で定める災害の防止のための措置を定めなければならない。
一 採取場の近隣に人家、教育施設、社会福祉施設、医療施設その他これに類するものがある場合
二 採取場の近場に飲用水、農業用水等に利用する井戸がある場合
三 第2号に掲げるもののほか、知事が災害の防止のための措置を講ずる必要があると認める場合
(埋めもどし)
第5条 申請者は、災害の防止を図るため、当該採取計画に埋めもどし(砂利の採取により生じた掘さくの跡地…を埋め戻すことをいう。以下同じ。)を行うこと及びその方法について定めなければならない。
(保障措置)
第6条 申請者は、知事が災害の防止上必要と認める場合は、当該採取計画に前条に定める埋めもどしに係る保障措置(当該認可を受けたものが埋めもどしを行うことができない場合に、埋めもどしが確実になされるよう当該者が講ずべき措置をいう。以下同じ。)として規則で定めるものを定めなければならない。
(採取計画の認可)
第7条 知事は、法第19条に規定する認可の基準の適用に当たっては、特に当該採取計画に定める次に掲げる事項が適正かどうかを審査しなければならない。
一 第3条に規定する規則で定める災害の防止のための措置
二 第5条に規定する埋めもどしの方法
三 前条に規定する規則で定める保障措置
2、3 (略)
A県砂利採取計画の認可に関する条例施行規則(平成26年1月28日A県規則第3号)(抜粋)
(趣旨)
第1条 この規則は、A県砂利採取計画の認可に関する条例(平成26年1月27日A県条例第2号。以下「条例」という。)の施行に関し必要な事項を定めるものとする。
(埋めもどし) 第4条 申請者(認可を受けようとするものをいう。以下同じ。)は、認可申請書(砂利採取法(昭和43年法律第74号)第16条に定める認可に係る申請書をいう。以下同じ。)には、砂利の採取系格闘に関する規則(昭和43年通商産業省・建設省令第1号。以下同じ。)第3条第2項第9号に掲げる書面として次に掲げる書類を添付しなければならない。
一 埋めもどし土量計算書
二 埋めもどし作業工程表
三 埋めもどしにしようする機械設備等の能力を確認できる書類
(保障措置)
第5条 条例第6条に規定する規則で定める保障措置は、次の各号に掲げるいずれかの保障措置とする。
一 中小企業団体の組織に関する法律…第3条第1項第8号に掲げる商工組合であるA県砂利工業組合による保証(申請者が埋めもどしを履行できない場合にA県砂利工業組合が申請者に変わって埋めもどしを行うことをいう。)
二 金融機関による保証(申請者が埋めもどしを履行できない場合において、土地の所有者…が、申請者との契約に基づき申請者に変わって埋めもどしを行うときに、申請者が土地の所有者に対して負う当該埋めもどしに係る債務について金融機関が保証していることをいう。) 三 第2号に類する保証措置で知事が適正と認める保障措置
2 申請者は、認可申請書には、省令3条第2項第11号に掲げる書面として、次に掲げる書類を添付しなければならない。
一 前項第1号に掲げる保障措置を講じた場合は、A県砂利工業組合の保証書
二 前項第2号に掲げる保障措置を講じた場合は、申請者と土地所有者の間で締結した埋めもどし契約書等の写し、金融機関の保証書の写し及び土地の所有者が申請者に代わって埋めもどしを履行する旨の知事に対する誓約書
三 前項第3号に掲げる保障措置を講じた場合は、埋めもどしが確実に保証されていることを証する書類


平成25年度

 X社は、A県B市に所有する土地に産業廃棄物処理施設(以下「本件施設」という。)を設置することを計画し、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という)に基づく許可を得るべく平成23年4月にA県知事に対して申請を行ったところ、同胞だい15条の2第1項の許可基準を満たしているとして同年8月31日に許可を受けた。
 ところで、B市においては5年ほど前、X社と同種の産業廃棄物処理施設の設置をZ社が計画した際に、その施設が廃棄物処理の過程で大量の洗浄水・冷却水を必要とする地下水を汲み上げる予定であることが判明し、それがB市の水道水源の水量を減少させる恐れがあったことから、急きょB市水源保護条例(以下「本件条例」という。)が制定されたという経緯があった。結局Z社は産業廃棄物処理施設の設置を諦めたが、今回X社の本件氏設も本件条例の対象施設に該当するため、本件条例第3条第1項の承認が必要とされた。
 そこでX社は平成23年5月にB市長に対して本件条例に基づく承認の申請(以下「本件申請」という。)を行ったが、その頃にはX社の本件施設の設置計画はB市住民の知るところとなっており、特に本件施設の設置予定地周辺の住民はZ社のときと同様に、本件施設によって上水道の水源が枯渇することを懸念して「産廃施設に反対する会」を結成し、B市議会への陳情やB市長への働きかけなどの反対運動を展開していた。これを受けてB市の所管課では、同月9日にX社の担当者Pが本件申請を行った際、「申請書はお預かりしますが、周辺住民とよく話し合いをして、住民の理解を得るまでは承認することは難しいとお考えください。」とPに伝えたところ、Pは「住民との話し合いを行うつもりですが、条例に従って審査してください。」と答えた。
 その後、X社は2~3週間に1回の割合で住民への説明会を行い、特に「産業施設に反対する会」との間で精力的な協議を行ったが、話し合いは平行線をたどった。他方、B市の所管課では申請内容を検討し、本件条例第5条に基づく水源保護審査会の審議も経た結果、同年6月30日には本件条例第4条第1項の「市の水源を枯渇させるおそれ」は認められないという結論に至っていた。しかし、水源の枯渇のおそれはないとしても本件施設によって水源の水量が大幅に減少することが予想され、また、周辺住民もなお反対を続けていたため、同年8月31日にPが来庁して「住民との間で既に7回の話合いをしたのですが、まるで聞く耳を持ってくれず、このままでは住民同意を得られそうにありません。知事の方から本日許可が得られたので、もし申請内容に問題がないならそろそろ市長の承認を頂けないでしょうか。それに、そもそも廃棄物処理法に基づく知事の許可に加えて条例で市長の承認を必要とするのは、法律違反ではないのですか。」と尋ねた際も、所管課担当者は「住民の理解を得られないまま産業廃棄物処理施設の設置を認めるのは市としても難しいので、話合いを継続してもらいたい。」と答えただけだった。
 仕方なくX社はその後2回の説明会を行ったが、住民の同意を得ることはできなかったため、Pは一計を案じ、「産廃施設に反対する会」の事実上の代表者を務めるQと密かに会い、「回の代表者として同意書にサインしてくれれば、Qの所有する土地建物を時価の倍で買い取る」という提案をし、Qは同意書にサインして現金を受領し、即日B市から引っ越してしまった。Pはこの同意書を持って、再びB市所管の窓口を訪れたが、住民から事情を聞いていた担当者は「この同意書はQが住民の了解なく勝手に署名したものだから、住民の同意とは言えない。」と伝えたため、X社は同年10月6日、「住民の同意も得ているのだから、直ちにB市庁は承認をするかしないか判断せよ。また、仮に住民同意を得ていないとしても、本状例は廃棄物処理法に反して向こうであるから、そもそも承認は必要ないはずだ。」と主張して、B市長に対して行政不服審査法に基づく異議申し立てをした。しかし、年内に本件施設設置への見通しが欲しかったX社は、同年11月15日に、本件施設で使用する水の取水方法として給水車を用いて県外から水を運搬することとし、B市の水源への影響を最小化させた上、周辺住民には和解金を支払うこととしたため、最終的に同年12月1日に至ってB市長の承認を得ることが出来た。

以上のような経緯のもと、X社からB市に対して、本件条例第3条第1項に基づく承認を留保されたことによる損害について国家賠償請求をするつもりでいるとの通告があった。


 あなたは、B市の法務担当者で、B市の所管課から次の二つの照会を受けたとする。【資料】に掲げられた本件条例の条文、及び【参照条文】を参考にしながら、最高裁判所の判例も踏まえ、それぞれの照会に対する回答書おを作成するつもりで解答せよ。
 なお、B市においては行政手続条例は制定されていない。

【照会1】本件条例は産業廃棄物処理法に違反するものか。
【照会2】仮に本件条例が産業廃棄物処理法に違反しないとした場合、B市長が留保していたことは国家賠償責任法上の違反となるか。もし違法だとすれば、いつの時点から違法か。

【資料】 B市水源保護条例(平成18年7月1日B市条例第25条)(抜粋)
(この条例の目的)
第1条 この条例は、水道法(昭和32年6月15日法律第177号)第2条の規定に基づき、市の水道水を将来にわたって安定的に供給するために、水道水源の枯渇を防止することを目的とする。
(定義)
第2条 この条例における用語の定義は、次に掲げるものを除き、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年12月25日法律第137号)(以下「法」という。)第2条の定義による。
一 水源 市の水道の原水の取り入れに関わる地域を言う。
二 対象施設 産業廃棄物処理施設で一日当りの水の使用量が市の規則で定める数値を超えるものをいう。
三~五 (略)
(対象施設設置の承認)
第3条 対象施設を設置しようとする者は市長の承認を受けなければならない。
2 前項の申請をする場合は、法第15条第2項で定める事項に加え、次に掲げる事項を記載した申請書を提出しなければならない。
一 対象施設において一日当りに使用する水の量
二 対象施設において使用する水の用途
三 対象施設において使用する水の取水方法
四 前号に掲げる取水方法により取水できる一日当りの水の量
五、六 (略)
3 (略)
(承認の基準)
第4条 市長は、前条第1項の申請に係る対象施設が市の水源を枯渇させるおそれがあると認められない場合には承認をしなくてはならない。
2 市長は、前項のおそれの有無を判断するに当たっては、B市水源保護審議会の意見を聴かなくてはならない。
(水源保護審議会)
第5条 前条第2項の意見を述べるために、市に水源保護審議会を置く。
2 水源保護審議会は、市長が任命する3人の委員をもって組織する。
3 前項の委員は、地形、地質、知象及び水象についての専門知識を有する者とする。
4~7 (略)

【参照条文】※ここでは、第◯条とのみ記載
日本国憲法 第94条
廃棄物の処理及び清掃に関する法律 第1条、第2条、第15条、第15条の2
廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則 第11条、第11条の2、第12条
行政不服審査法 第2条、第3条
地方自治法 第1条の2、第2条
水道法 第1条、第2条


平成24年度

 平成22年頃、株式会社A社は、Y市郊外で大規模ショッピングセンターを建設・開業することを計画した。この計画をめぐっては、地元の消費者や計画予定地周辺の飲食店等の事業者らの熱烈な歓迎を受ける一方、市街地の既存事業者が強い反対を表明した。計画をめぐる市民の対立は、時間を減るごとに激化し、反対はの市民がA社の事業所を一時不法占拠するなどの混乱が生じていた。
 そのような中、Xらは、平成24年6月3日にY市市民会館(以下「本件会館」という。)のホールで「Aショッピングセンター建設反対集会」(以下「本件集会」という。)を開催することを企画し、同年4月2日、Xが、Y市長に対し、Y市市民会館条例(以下「本件条例」という。条文は、【資料】に掲げたとおりとする。)第4条に基づき、使用団体名を「Aショッピングセンター建設反対の会」(以下「本件団体」という。)としつつ、一般の来訪者の参加も認めることを想定していると説明した上で、上記ホールの使用許可を申請した。(以下「本件申請」という。)
 本件会館は、市内で最大の乗降車数を誇るB駅のターミナルの一角にあって、付近は、道路を隔てて約250店舗の商店街があり、市内最大の繁華街を形成している。また、本件会館のホールの定員は、500名である。
 本件申請の許否の専決権者であるY市総務部長は、本件集会のための本件会館の仕様が、本件会館の使用を許可してはならない事由を定める本件条例第5条第1号の「善良な風俗を害し、又は公安を乱すおそれがあると認めるとき。」に該当すると判断し、平成24年4月23日、Y市長の名で、本件申請を不許可とする処分(以下「本件不許可処分」という。)をした。

 本件不許可処分お理由は、以下の3点であった。
 第一に、本件集会の主催者である本件団体は、A社に対する脅迫やA社事業所の不法占拠を主導したC(現在は服役中)により設立された団体であって、A社より、こうした暴力団体に対しては本件会館を使用させないようにされたい旨の嘆願書も提出されており、このような団体に本件会館をしようさせることは、公共の福祉に反するということ。
 第二に、本件団体は、平成24年2月5日、Y市内のD公園でも集会を行っているが、その際、参加者の一部が、街路樹に火をつけたり、公園のベンチを破壊したりするなどの行動をしており、本件集会を認めると、本件会館の備品や設備が破壊されるおそれがあるということ。
 第三に、本件申請をしたXが、本件団体の会報にて「Aショッピングセンターの開業を阻止するためであれば、どんなことでもします。もし開業を強行したら、A社本社が崩れ去ってもおかしくないでしょう。」という不穏な発言をしていること。

 そして、Xは、本件不許可処分の取消訴訟を提起した。

 以上の事実を前提に、以下の問いに解答しなさい。なお、Xの取消訴訟は訴訟要件を充たしたものと仮定して、解答すること。


 あなたは、Y市の担当者で、上司から次の二つの質問を受けたとします。【資料】に掲げられた本件条例の条文、及び【参照条文】を参考にしながら、報告書を作成するつもりで、解答しなさい。
(1)Xは、取消訴訟の中でどのような主張をしてくると想定されるか。
(2)(1)で解答したXの主張を前提としたとき、取消訴訟で、Y市が敗訴する可能性はどの程度あるか。主要な学説や過去の判例を紹介しながら、具体的に理由を付して解答すること。

【資料】
Y市市民会館条例(昭和44年4月1日Y市条例25号)(抜粋)
(目的)
第1条 この条例は、Y市市民会館(以下「会館」という。)の設置、管理及び運営等に関し、必要な事項を定めることを目的とする。
(設置)
第2条 市民生活の向上と福祉の増進並びに社会教育の振興を図るため、会館を設置する、
2 会館の名称及び位置は、次のとおりとする。
 名称 Y市市民会館
 位置 Y市B町1番地の1
(職員)
第3条 会館の管理、運営等を所掌するため、館長のほか必要な職員を置く。
(使用の許可)
第4条 会館を使用とする者は、市長の許可を受けなければならない。
2 市長は前項の許可をする場合において、管理上必要な条件を付すことができる。
(使用の不許可)
第5条 市長は、次の各号の一つに該当するときは、会館の使用は許可しない。
 一 善良な風俗を害し、又は公安を乱すおそれがあると認めるとき。
 二 会館の管理上支障があると認めるとき。
 三 その他会館の運営上不適当と認めるとき。
(使用期間)
第6条 会館は、同一使用者が同一施設を引き続き5日を超えて使用することはできない。ただし、市長が特に会館の管理、運営上支障がないと認めたときは、この限りでない。
第7条~第10条 使用料に関する規定につき省略
(目的外使用等の禁止)
第11条 使用社は、許可を受けた目的以外に会館を使用し、又はその権利を譲渡し、若しくは転貸してはならない。
(使用許可の取消し等)
第12条 使用者の行為が次の各号の一つに該当する場合、市長は使用許可を取り消し、又は使用中であつても、これを中止させることができる。
 一 この条例及びこれに基づく規則に違反したとき。
 二 使用許可の条例に違反したとき。
 三 その他市長が特に必要あると認めたとき。
2 前項の場合、使用者に損害を生ずることがあつても市は倍賞の責を負わない。
(特別の設備等)
第13条 会館の使用に当たつては、特別の設備をし、又は既存の設備を変更することはできない。ただし、市長が特にやむを得ない理由があると認めたときは、この限りでない。
(原状回復の義務)
第14条 使用者は、会館の使用を終わつたとき、又は前条ただし書の規定により特別の設備をなし、若しくは設備を変更した場合は、使用後直ちに現状に復さなければならない。また第12条の規定により使用許可を取り消され、又は使用中に中止させられた場合も同様とする。
2 使用者が前項の義務を履行しないときは、市長においてこれを代行し、その費用を使用者から徴収することができる。
(損害賠償)
第15条 使用者は、建物又は付帯施設、設備及び備品類を滅失、又はき損した場合は市長の定めることにより、その損害を賠償しなければならない。
(立入検査)
第16条 使用者は、会館職員が職務の執行上会場に立ち入る場合、これを妨げてはならない。
(委任)
第17条 この条例の施行に関し、必要な事項は市長が別に定める。

附 則
1 この条例は、公布の日から施行する。
2 Y市公民館条例(昭和39年Y市条例第35条)は、この条例施行の日から廃止する。

【参照条文】
日本国憲法 第21条
地方自治法 第244条


平成23年度

 A県では、悪化する県の財政を立て直すことを目的として、「職員の給与に関する条例」【資料1】(以下「給与条例」と略し、解答においてもこの略称を用いてよい。)を改正する「職員の給与に関する条例の一部を改正する条例案」【資料2】(以下「改正条例案」と略し、解答においてもこの略称を用いてよい。)を平成24年12月に県議会で可決させたいと考えている。この条例改正案では、一方では、給与条例第8条で定められた給与を減額し、他方では、給与条例第20条で定められた期末手当の支給を3回から2回へと変更することを柱としているが、同時に、平成25年3月の期末手当の支給については特例措置で対処しようとするものである。
 あなた(以下「C」とする。)はA県の職員であり、上司Bの下でこの改正条例案の問題点の検討を担当することとなった。以下の【上司Bとの会話】を参照して、この改正条例案の問題点について上司Bに対する報告書を作成しなさい。

【上司Bとの会話】
B:今回の改正条例案は、県知事が選挙公約に掲げた県財政構造改革の一環としてなされるものね。私達の給料も下がってしまうけど、人事委員会の勧告にも基づいているし、この経済状況で県行政に対する県民の理解を得なければならないのだから合理的な方法でなら仕方ないという面もあるわね。給料を減額するというけれど、どれくらい引き下げようとしているのかしら。
C:改正条例案第1条の給与表(省略)をこれまでの給与表と比べてみますと一律5%下がっていますね。
B:いまのA県の職員の給料は平均で月40万円なので、5%の減額ならばそれほど問題無いと思うのだけれど、どうかな。それで、改正条例案は今後はボーナスの回数を減らそうっていう案でもあるわけだけれど、平成25年の春のボーナスは支給するみたいね。
C:そのようですね。改正条例案附則第1条で第2条の施行は平成25年4月1日になっています。
B:それはそれでよいのだけれど、その春のボーナスには特例措置があるわね。
C:附則第2項の定めるものですね。
B:そう、それが気になっているのよ。よく読んでみて欲しいのだけれど、この特例措置って、実質的にはすでに支払った給料に手を付けるものじゃないかな。そうだとすると、すでに具体化された法律関係に影響を与えるというか、既に発生した賃金請求権を侵害するものというか、いずれにせよ憲法第29条との関係で問題がありそうね。損害補償の話は措いておいてよいから、第29条第1項と第2項をいかに理解するかを明らかにした上で、それらに違反していないかを検討する必要があるわね。
C:確か、最高裁判例の中で、旧法の下で発生した財産権の事後的な侵害が問題になった先例がありましたね。
B:うん、あるわね。それとの関係で問題がないか検討してみてね。あのケース、事案としてはかなり得意なものではあったから、単に機会的に当てはめるだけではなくて判例の射程をどこまで及ぼすかについてもあなた自身の考えを明らかにしてね。それから、つまるところは同じ根っこから生まれる問題なのかもしれないけど、民間企業については【資料3】のような最高裁判例もあるのよ。この判決も読んで、今回の改正条例案にもこの判決の考え方が当てはまるか、なぜそう思うのかについても合わせて検討してもらえるかな。

【資料1】職員の給与に関する条例(昭和35年A県条例第45号)[抄]
第7条(給料) 職員には、正規の勤務時間による勤務に対する報酬として給料を支給する。
第8条(給料表)給料法の種類は、次のとおりとし、各給料表の適用範囲は、それぞれ当該給料表に定めるところによる。
(1) 行政職給料表(別表第1[省略])
(2) 研究職給料表(別表第2[省略])
(3) 医師・歯科医師職給料表(別表第3[省略])
(4) 看護職給料表(別表第4[省略])
(5) 警察職給料表(別表第5[省略])
第20条(期末手当)期末手当は、3月1日、6月1日、12月1日(以下この条から第20条の3までにおいてこれらの日を「基準日」という。)にそれぞれ在職する職員に対して、それぞれ基準日の属する月の人事委員会規則で定める日に支給する。
2 期末手当の額は、期末手当基礎額に、3月に支給する場合においては100分の50、6月に支給する場合においては、100分の125、12月に支給する場合においては100分の150を乗じて得た額とする。

【資料2】職員の給与に関する条例の一部を改正する条例案[抄]
第1条 職員の給与に関する条例(昭和35年A県条例第45号)の一部を次のように改正する。
 別表第1から別表第5までを次のように改める。[省略]
第2条 職員の給与に関する条例の一部を次のように改正する。
 第20条第1項中「、3月1日」を削り、同条第2項中「、3月に支給する場合においては100分の50」を削る。
附則
1 この条例は、平成25年1月1日から施行する。ただし、第2条は、平成25年4月1日から施行する。
2 平成25年3月に支給する期末手当の額は、第1条の規定による改正後の職員の給与に関する条例第20条第2項にかかわらず、動向により算定される期末手当の額(以下この項において「基準額」という。)から次に掲げる額を減じた額とする。この額が基準額以上になるときは、期末手当は支給しない。
 平成25年3月1日まで引き続いて在職した期間で平成24年4月1日施行日の前日までのものについて支給される給料の額の合計額から、この期間について改正後の本条例の規定によって算定される給料の額の合計額を減じた額

【資料3】最高裁判所平成8年3月26日判決(最高裁判所民事判例集第50巻4号1008項)
 Y社(被告、上告人)は経営の悪化を受けて、昭和58年4月1日より定年を満63歳から満57歳に引き下げることについて藤堂組合との間で合意し、同年7月11日、労働協約を締結した。これに伴い同日、就業規則も同一内容のものに改めた。Y社の社員であったX(原告、被上告人)は同年4月1日の時点で57歳に達していたので、Y社は、同年3月末日に定年により退職したものとして扱い、社員としての給与を支払わず、定年後再就職した特別社員として勤務を続けたものとみなした。XはY社に対して社員として支払いを受けるべきであった給与と特別社員としての給与との差額の支払いを求めた。この事案について、最高裁は次のように判断した。
 なお、労働協約とは、労働組合と使用者との間で労働条件に関する協定(労働組合法第89条参照)であるが、ここではいずれも労働条件を規律する効果を有することが重要である。また、上記の事案の説明においては、下記に引用した判決文に合わせて事案の一部を簡略化している。本文は省略された部分について労働法的な知識を問うものではない。
 「右事実関係によれば、本件労働協約及び就業規則の変更の効力が生じたのは昭和58年7月11日であることが明らかであるから、同年4月1日から7月11日までの間は、被上告人は、従前どおり社員の地位にさるものとして労働に従事し、その代償として従来の基準に従って算出された賃金請求権を既に取得していたものである。そうであれば、具体的に発生した賃金請求権を事後に締結された労働協約や事後に変更された就業規則の遡及適用により処分又は変更することはゆるされないから、(最高裁昭和60年(オ)第728号平成元年9月7日第一小法定判決・裁判集民事157号433項参照)、上告人は、被上告人に対し、昭和58年7月11日までは、社員としての賃金の支払い義務を負うものといわなければならない。
 したがって、これと同士の原審の判断は正当であって、論旨は採用することができない。」

【参考条文[抄]】
日本国憲法 第29条
地方公務員法 第24条6
労働組合法 第14条
労働基準法 第89条

平成22年度

 A県では、県内で起きた食品偽装事件による県民の食品への関心の高まりを受け、新たに「A県食の安全・安心の確保に関する条例」を制定しようと考えている。その条例案が【資料1】に掲げたものである。この条例案の目玉は、県内の食品関連事業者が食品等の自主回収を始めたという情報を県が一元的に手早く収集するという、【資料2】の食品衛生法には盛り込まれていない仕組みを導入するところにある。
 この条例案に賛成しようと考えている議員が、A県の担当者に条例案の内容について次のような質問を行った。あなたはA県の担当者であるとしたらどのように答えるか、論じなさい。

(1)「この条例案の第24条が憲法94条に違反しているという批判がありうると聞いたが、それは具体的にはどういった内容の批判だろうか、また、その批判に対して私達側から説得力のある反論を行うにはいかに論じればよいか。」
(2)「この条例案第25条第4項に基づけば、第24条により知事が『特定事業者』(同条例案第2条第5号)から自主回収を行うとの報告を受けた場合には、県民の安全を守り不安を鎮めるために、知事が速やかに事業者の名前と自主回収の対象となっている製品の名前を公表できると思われる。しかし、知事が公表しうることをわざわざ条例に明記しなければならないのだろうか。その理由も含めて、詳しく説明してほしい。」

【資料1】A県食の安全・安心の確保に関する条例(案)[抄]
(目的)
第1条 この条例は、県民が豊かな食生活を通じて健康に暮らしていくためには食の安全・安心をかくほすることが重要であることにかんがみ、食の安全・安心の確保に関し、基本理念を定め、並びに県及び食品関連事業者の責務並びに県民の役割を明らかにするとともに、施策の施策に係る基本的な方針を定めることにより、食の安全・安心の確保に関する施策を総合的に推進し、もって県民の健康の保護並びに食品関連事業者と県民との間の信頼関係の構築並びに安全でかつその安全性を信頼できる食品の供給及び消費の拡大に寄与することを目的とする。
(定義)
第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 一 食品 すべての飲食物(薬事法(昭和35年法律第145号)に規定する医薬品及び医薬部外品を除く。)をいう。
 二 食品等 食品並びに添加物(食品衛生法(昭和22年法律第233号)第4条第2項に規定する添加物をいう。)、器具(同条第4項に規定する器具をいう。)、容器包装(同条第5条に規定する容器包装をいう。)及び食品の原料又は材料として使用される農林水産物(以下「農林水産物」という。)をいう。
 三 食品関連事業者 食品等又は肥料、農薬、資料、飼料添加物、動物用の医薬品その他食品の安全性に影響を及ぼすおそれがある農林漁業の生産資材の生産、輸入又は販売その他の事業活動を行う事業者をいう。
 四 生産者 食品関連事業者のうち、農林水産物を生産し、又は採取する者及びこれらの者で構成される団体をいう。
 五 特定事業者 次に掲げる食品関連事業者及び団体であって、県の区域内に事業所、事務所その他の事業に係る施設又は場所を有するものをいう。
 イ 食品等を生産し、採取し、製造し、輸入し、又は加工することを営む者
 ロ 食品等を販売することを営むものであって、A県規則(以下「規則」という。)で定めるもの  ハ イに掲げる者により構成される団体
(自主回収の報告)
第24条 特定事業者は、その生産し、搾取し、製造し、輸入し、加工し、又は販売した食品等の自主的な回収に着手した場合(法律に基づく命令又は書面による回収の指導を受けて回収に着手した時を除く。)であって、当該食品等が食品衛生法の規定に違反する食品等に該当するときは、速やかに、その旨を規則で定めるとこにより知事に報告しなければならない。
(回収に係る指導等)
第25条 知事は、前条の規定による報告に係る回収の措置が、健康への悪影響の発生又はその拡大を防止する上で適切でないと認めるときは、当該報告を行った特定事業者に対し、回収の措置の変更に係る指導その他必要な指導を行うことができる。
2 知事は、前条の規定による報告を受けたときは、速やかに当該報告に係る食品等が流通する地域を管轄する地方公共団体の長に対し、当該報告に係る情報を提供するものとする。
3 前条の規定による報告を行った特定事業者は、当該報告に係る回収を終了したときは、速やかに、その旨を規則で定めるとことにより知事に報告しなければならない。
4 知事は、前条又は前項の規定による報告を受けたときは、速やかに、県民に対し当該報告の内容を公表するものとする。

【資料2】
食品衛生法 第1条、第4条、第28条

(参照条文)
日本国憲法 第94条


平成21年度

 A県Y市は、人口規模の大きな都市で、あり、丈化奨励政策に力を入れていた昭和55年、Y市議会は、その一環として「Y市日本画振興助成条例」【資料1】を制定した。同条例は、「市民の情操の涵養と文化の向上」を目的として(同条例第l条)、Y市文化振興条例の特別法として制定されたものである。同条例によれば、希望者は年に一度、Y市教育委員会に対し助成金の交付申請を行うことができ、教育委員会は専門委員からなる審議会の答申を参考に助成の可否を判断する(そして、申請が許可されると申請者は50~300万円の助成金の交付を受けることができるに日本画ジャンルに絞った文化奨励給付金は、他の自治体の施策にはあまりみられないユニークなものであった。
 制度導入以降、助成の可否を実質的に判断する専門委員に評価の高い評論家・日本画家などを起用したこともあり、また助成を受けた者の中から著名な画家が多数輩出されるなどして、この施策は高い評価を受けていた。
 Xは、昭和50年に東京郊外に生まれ、都内の美術大学で日本画を専攻した日本画家である。Xは、日本画の技術を世界に発信しようと考え、平成12年にフランスに留学し、平成15年からフランスのB芸術大学准教授(日本両専攻)に就任した准教授就任以降、Xは、生活の本拠をパリ郊外のアトリエに移し、平成19年にはフランス国籍を取得し日本国籍を離脱した。もっとも、渡仏後も、Xは日本画を描き続け、日本国内でも高い評価を受けている。
 平成21年初めに、Xは、「Y市日本画展」を主催するC芸術財団から同展覧会への出品依頼を受けた。同展覧会は、毎年10月にY市立美術館にて開催され、評価の高い現役日本画家の新作が多数出品されることで著名な展覧会である。同展覧会の出品者の多くは、旅費や製作・搬入の費用についてY市日本画振興助成条例に基づく助成を受けていた。このことを知ったXは、同年6月12日、Y市教育委員会に刺し助成金の交付を申請した。しかし、同条例第4条第2項第3サは、日本同籍を有しない身には申請資格がないことを規定していた。この点については、条例制定時、Y市長から【資料2】に示したような説明がなされている。\\   申請時点で日本国籍を有していなかったXは、同月16日、教育委員会より申請却下の通知を受けた。助成の可否について答申を行う専門委員会のメンハーであるD氏は、新聞の取材に対し「X氏が日本国籍を離脱していなければ、実績・実力から考えて、申請が許可された可能性は非常に高かったのではないか。」とコメントしたと報道されている。

問題1
 平成21年6月19日の新聞にて、XはY市教育委員会の措置を不当なものと考え、助成金の交付を求め訴訟を提起しようと考えている旨の報道がなされた。これについてY市の所管部長は市の担当者に対し、次のような質問を行った。あなたが質問を受けた担当者だったらどのような回答書を作成するか、述べなさい。

「X氏から、具体的にどのような訴訟が提起される可能性があるか。提起されるおそれのある訴訟が複数ある場合には、不適法な訴えであることが明らかであるなと検討の必要のないものを除き、その全てを挙げてほしい。
 また、その訴訟の中で、どのような主張がなされ得るか。
 なお、訴訟要件についての主張については検討する必要はない。」

問題2
 問題1で解答した訴訟が提起された段階で、Y市の所管部長は訴訟への対応を検討するために、市の法務担当者に対し次のような質問を行った。あなたが質問を受けた担当者だったらどのような回答書を作成するか、述べなさい。
「X氏の主張に対し、Y市の側からどのような反論ができるのか。また、そのような反論を示しつつ応訴した場合、Y市が敗訴する可能性はどの程度あるのか。判例や学説の状況を示しながら回答してほしい。」

【資料1  Y市日本画振興助成条例】
(目的)
第1条 この条例は、日本画文化の振興に寄与する活動を行う団体及び個人(以下「団体等」という。)に対して助成を行い、もって市民の情操の緬養と文化の向上を図ることを目的とする。
(定義)
第2条 この条例において「日本画」とは、主に岩絵具を用いて制作される伝統的手法に基づく絵画芸術をいう。
(助成)
第3条 市は、団体等が次の各号のいずれかに該当する場合で、Y市教育委員会(以下「教育委員会」という。)が必要と認めたときは、予算の範囲内で助成金を交付することができる。
 (1) Y市内で、日本画文化の振興に寄与すると認められる発表会、講演会、展覧会及び展示会(以下「発表会等」という。)を開催するとき、又はそれに出品するとき。
 (2) Y市の主催する展覧会等に出品又は出場するとき。
 (3) 前各号に掲げるもののほか、教育委員会が日本画文化の振興のため特に意義があると認められる活動等を行うとき。
(申請)
第4条 前条の助成金の交付を受けようとする者(以下「申請者」という。)は、教育委員会に申請しなければならない。 但し、同一年度に2回以上申請を行うことはできない。
2 次の各号に掲げる団体等は、申請をすることができない
 (1) 3年以内に、前条の助成金の交付を受けた団体等
 (2) 過去に、第6 条の規定に基づく交付の決定の取消し又は助成金の返還請求を受けた団体等
 (3) 日本国籍を有しない者又は日本国籍を有しない者を代表とする団体
(助成の決定)
第5条 教育委員会は、前条の規定による申請があったときは、助成の可否を決定し、その結果を速やかに申請者に通知しなければならない。
2 教育委員会は、助成の可否を決定するため、Y市日本画振興助成審議会に答申を求めることができる。
3 教育委員会は、第1項に基づき交付の決定をしたときは、目的を達成するため必要な条件を付すことができる。
(取消、返還)
第6条 教育委員会は、申請者が次の各号のいずれかに該当する場合は、交付の決定を取り消し、及び助成金の全部又は一部を返還させることができることができる。
 (1) 申請内容に虚偽の記載があったとき。
 (2) 助成金を目的以外に使用したとき。
 (3) この条例に違反したとき。
(調査、報告)
第7条教育委員会は、助成金を交付した団体等に対して、必要な調査を行い、又は報告を求めることができる。
(委任)
第8条この条例の施行について必要な事項は、教育委員会規則で定める。

【資料2 Y市日本画振興助成条例制定時の第4条第2項第3号に関する説明(議会議事録より)】
P議員 申請資格者を、日本国籍保有者に限定しているのは、いかなる理由ですか。
Y市長(制定当時) 海外からの申請に対応するということになると、外国語での申請要綱の作成や通知のための国際郵便費用などコストの増大が予想されますし、申請数が増えすぎて予算を有効に使えなくなる虞がある等、諸々の問題があると考えた次第です。また、日本画文化の奨励という観点からして、外国人の方に申請資格を認める必要はないものと判断しました。

(参照条文)
日本国憲法(昭和二十一年十一月三日憲法)第10~40条




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past-exam1a/public-law.txt · 最終更新: 2015/07/07 22:06 by seiya